妖怪物語

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龍の森


岩手県遠野にある魔所。
この森には既に亡くなった者が、生きているままの姿で現れるという。

山登りの途中、前に登山者の姿を見つける。その登山者は身なり格好といい亡くなった祖父そっくりである。しかも生前山が好きだった祖父がいつも身に着けていたジャンパーを羽織っていた。登山者に近づこうとするが、その前には崖があって、そこにたどり着くためには山道を迂回しなければならない。道を回ってようやくその場所にたどり着いたとき、そこには人影はなかった。自分の見たものは幻か?
これは単なる人間違いである。木々の緑の葉の間にある他とは違った色の物を見かけると、そこに誰かがいるものと錯覚してしまう。近づくとそれは色の違った葉または木の幹であることがわかる。
青山はよく単独で山に登る。季節を外してあまり知られていない山に来ると、ほとんど人に出会うことはないが、ときどき前から鈴(クマよけの鈴)の鳴る音が聞こえ、先を行く登山者の姿が木々の間に見え隠れしているのを視止める。すぐに追いつくだろうと思い足を速めるが、どこまで行っても追いつけない。いつしか鈴の音は聞こえなくなる。これなどは先を行く登山者が自分よりも健脚なだけである。山に行くとときどき不思議なことに出会う。それも山の楽しみの一つである。