妖怪物語

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不知火(しらぬい)


熊本県の八代湾、あるいは有明海に出る。
沖を明かりをつけた何槽もの船が列をなしていく光景は、海で亡くなった漁師たちの霊と言われている。船団の様子を見ようと船に近づいた者は、みな水底に引きづり込まれて溺死する。

もはや解説不要。これは光の反射、屈折で説明できる明らかな自然現象。つまり蜃気楼の一種。有明海のような遠浅の海では海上の空気の温度差により、この光学現象が起こりやすい。ただ最近では人工の明かりが強すぎて、滅多に見ることができない。
同類の怪異に「船幽霊」がある。船だけの怪異として、船で海上を行くとどこからともなく人が乗っていない船が現れ、こちらに向かって進んでくる。船を避けようとして舵を切ると、こちら側は沈没する。避けないでいると船は当たる前に消える。
他には海で亡くなった亡者が、海の底から船に上がってくる「海亡者」がいる。亡者たちは柄杓(ひしゃく=船の中に入り込んだ水を掻き出すもの)をくれという。それを渡すと反対に海水を船の中に入れ込む。そのままにしておくと水がたまり船は沈む。その時は底を抜いた柄杓を渡せばよい。
亡者(死者)たちは悪気があってやっているのではない。先に冥界(死後の世界)に行ってしまった亡者たちは人が恋しいのである。仲間が欲しいから、生きている者たちを一人でも多く冥界に連れて行きたいと思っている。